それがどんなに非情な現実でも、嘘だけは伝えない。

取り立てて不幸だったわけでも幸せだったわけでもなく、あえて言葉にするのであれば央児の人生は普通そのものだった。
両親は健在していたし、子供の頃に裏の世界に染まる事もなかった。
そのまま普通の人生を歩み続けていたのならば、恐らく央児は情報屋になどならなかっただろう。

そんな央児の未来を変えたのは、その頃まだこの街で一番の『情報屋』と呼ばれる男との出会い。

人によっては道を踏み外したとも思えるであろう出会いを央児は怨んだ事はなかった。
否、それ以上に央児はその道を選ぶきっかけとなったそれを幸福だとさえ思っていた。

央児がその男と出会うきっかけになったのは、当時幼馴染であった少女が行方不明になった事件だった。
周りの人間は央児に大丈夫だと伝えるばかりで、何一つ本当の事を教えてはくれない。
その事に憤りを感じた央児が自ら選んで情報屋へと足を運んだのだ。
幼い少年が情報屋を訪れるなど、異様だったに違いない。
それでも、その時の央児は必死だったのだ。少女を救いたいと、行方を知りたいと本気で考えた故の行動。

しかしそれは報われない。
情報屋が央児に伝えたのは『分からない』という周りの人間と同じ答えだった。

何の手だても無くなってしまった央児は、数年後その少女の死を知る事になる。
その時に央児は決めたのだ、少女を救えなかったのは自分の知識が情報が足りなかったからだと、情報屋になる事を……

そうして数年……央児はあの日、情報屋が嘘を吐いていた事を知る。
少女の行方を知っていながら、金の無い子供を門前払いしただけなのだと……

何故……嘘を吐いたのだろうか?
あの日、多額の金を請求されようと、央児はその為に足掻いただろう。
けれど、それすらも許されなかったのだ。

だから央児は決めた……嘘を吐かないと……
それが央児の決めた情報屋としてのルールだった。







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